狂気の殺人鬼に成り果てた後半生
ジャンヌの処刑後、ジルは明らかに精神の均衡を崩してしまったことが記録され、とりわけ黒魔術や悪魔崇拝など、神を貶めることに憑りつかれたと見られる記録が残されています。そして黒魔術の生贄として、多くの少年を凌辱の上で殺害。その被害者は50人とも1500人以上とも言われ、現在も正確な人数は把握されていません。
また、同時にジャンヌと共に駆けた百年戦争時代を懐かしむようにもなり、彼は自身の城や領地等の財産を湯水のように消費して、回顧じみた活動を展開。この浪費はすさまじいものだったらしく、ジルはその後に禁治産者に設定されたとも記録されています。
そして1440年。少年たちへの虐殺の罪でジルは処刑されることになるのですが、その処刑の真の理由も「フランス王家がジルの財産を狙って裁判を起こした」「ジルが自身の領土を他国に売り払うことを警戒した」と言われています。
つまり、その裁判が本当にジルの罪を裁くためのものだったのかは、現在も議論の余地がある事柄となっているのです。
ジル・ド・レが狂気に落ちた理由とは?
ジル・ド・レが狂気に落ちた理由については、明確な記録がないため状況証拠などから想像することしかできません。とはいえ、状況的な部分から想像するに、彼がジャンヌの処刑によって大きく精神の均衡を崩したことは、非常に有力な説であると言えるでしょう。
また、ジャンヌとジルには「敬虔なキリスト教徒だった」という共通点もあり、ジャンヌの死後のジルは、そこで奉じていた神を貶めることに憑りつかれたようになっています。
そのため、ジャンヌ・ダルクを救わなかった神に対しての信仰心が捻じ曲げられ、憎悪に変わってしまったことが彼が狂気に落ちた理由であるとも読み取れそうです。
ともあれ、それらはあくまでも記録から読み取れる部分を組み合わせた想像でしかなく、後世の様々な物語が付随したうえでの結論となっています。ですので、あくまでもこれらの理由は「想像である」ということは念頭に置いたうえで、ジル・ド・レという人物を考察していただければ幸いです。
【閲覧注意】彼が行った残酷な殺人について
実のところ、ジル・ド・レが行った少年たちに対する殺人については、それほど多くの記録が残っているわけではありません。
裁判記録などの多くはない記録からは「少年を城に呼び寄せ、豪華な衣服と食事を与えて、それから性行為に及び、最後に首を生きたままゆっくりと切って殺害する」というジルの手口が読み取れる程度となっています。
とはいえ、この不自然に少ない記録の理由は「裁判でジルが語った殺人の内容があまりにもおぞましく、記録からの削除を命じられたから」というもの。ジルの城からは最低でも50人以上の、首と両腕両足を失った少年の死体が見つかったということからも、その内容のおぞましさはご理解いただけるかと思います。
また、気に入った少年の首を腐敗するまで手元に置いていたという噂も残っており、その首を選ぶために寵臣に少年の首を並べさせたというエピソードも、後半生のジルの狂気を彩るエピソードの最たるものだと言えるでしょう。
ジャンヌ・ダルクへの思慕ゆえか、それとも神に対して敬虔過ぎた反動なのか…。ともかく、百年戦争の終結によって「救国の英雄」が狂気に落ちてしまったことだけは、どうしようもない事実でしかありません。
死因は絞首刑による刑死
ジル・ド・レの死因は絞首刑による刑死です。当初は絞首刑の後に火あぶりになるはずですが、裁判中のジルの様子から火刑は取りやめになっています。この時代、火刑は死者の魂を汚す行為と考えられていました。
ジルは殺人が判明し逮捕されると、フランス西部のナントという町に送られ宗教裁判にかけられています。当初ジルは完全に容疑を否認。それどころかジルは司祭に、
「お前たちに話すことはない」
と言い放ったといいます。何も話さないジルに裁判官は拷問をかけることを指示。拷問方法は動けなくさせたうえで口にロートを突っ込み次々と水を飲ませるという方法が取られています。この拷問は胃が水で一杯になっても永遠に流し込まれ続けられます。
そして拷問されると聞いたジルは態度を豹変させ自白。異常な犯罪の数々を証言しました。あまりの惨さに裁判官や司教も胸で十字を切ったといいます。ジルは証言が終わると頭を打ち付けて懺悔の言葉をいい、司教が慰めるという場面もあったようです。
現代に描かれるジル・ド・レの姿
ジル・ド・レをモチーフにしたとされる作品は、シャルル・ペローの童話『青ひげ』が最も有名です。日本ではさほど有名ではない物語ですが、グリム童話にも(翻案があったうえで)収録されるなどの評価を受けている作品ともなっています。
また、現在「ジル・ド・レ」の名前の検索候補に出てくる言葉は、そのほとんどがアニメやゲームなどの作品です。
それらの作品の中でも『Fate』シリーズで描かれるジル・ド・レは、「救国の英雄である騎士」としての姿と「狂気に満ちた殺人鬼」の二つの側面がそれぞれ別のキャラクターとして登場。
どちらも味わい深いキャラクターとなっていますので、皆様もぜひ一度ご覧いただければと思います。
また、漫画『ドリフターズ』でもジャンヌ・ダルクの副官として、主人公たちの前に立ち塞がる強敵として描かれることになっています。
このように、多くの作品に登場するジル・ド・レは、ある意味で人々に親しまれるキャラクターになったとも言えるかもしれません。