1937年 – 59歳「日中戦争勃発」
トラウトマン和平工作を蹴る
広田内閣倒閣後、広田は鵠沼の別荘で生活するものの1937年6月に発足した近衛文麿内閣の外務大臣となりました。7月に起きた盧溝橋事件で広田は不拡大方針を主張しました。
世論が戦果に沸き立つと広田の主張は妥協的となり、陸軍の求める増軍を認め始めます。1937年11月にドイツのトラウトマンを仲介にした和平交渉が行われますが、日本が優勢となると和平条件の釣り上げを提案しました。
結果的に近衛文麿は「国民政府を対手とせず」と声明を発表。日中戦争は泥沼化していきます。ただ後に近衛はこの強硬案が間違いだと気づき、5月には内閣改造にて広田は外務大臣を辞任しました。
広田の真意は?
斎藤内閣・岡田内閣の頃と違い、広田は日中戦争で強気な発言が目立つようになりました。軍部に追従したのか、領土拡大の欲が出たのか、広田の真意は分かりません。ただ当時の外交官達は広田の対応を批判していたようです。
1941〜1945年 – 63〜67歳「太平洋戦争勃発」
開戦前の広田
外務大臣辞任後の広田は、元総理大臣で構成される重臣会議に参加。東條英機が総理大臣になる事に賛成した他、対米交渉に悩んだ東郷茂徳に辞めないよう慰留するよう説得する等の行動をしています。
太平洋戦争期の広田
1941年12月に太平洋戦争が勃発。日本は徐々にアメリカに押されていきます。1945年6月にはソ連を仲介とした和平案が検討され、広田はソ連大使と非公式の接触を図るものの、思うような返答は得られませんでした。
また8月6日には広島に、9日には長崎に原発が投下。更にソ連が満州に侵攻してくる中、8月10日には重臣会議が開催されています。広田は「無条件降伏も亦已むを得ない」と発言。8月15日に日本は終戦を迎えました。
1945年 – 67歳「A級戦犯として逮捕される」
A級戦犯として逮捕される
終戦後、連合国は前述した東京裁判を開催。広田は1945年12月2日に逮捕命令が出ています。連合国側は広田内閣が軍部大臣現役武官制を復活させた事を問題視した他、広田が玄洋社の社員である事も警戒していました。
その後、広田がA級戦犯として起訴された事と、絞首刑判決を受けた事は先程述べた通りです。死刑判決を受けた時、広田は傍聴席にいた子ども達に別れを告げる意味で手を振ったのです。
ただ広田は絞首刑判決に対しては「雷に打たれた様なものだ」と飄々と答える等、死を恐れてはいませんでした。なお広田の刑は重すぎるという意見が当時からあり、全国から数十万という署名が集まったそうです。
1948年 – 70歳「巣鴨プリズン内で絞首刑執行」
絞首刑が執行される
広田は1948年11月18日に死刑判決を受けました。A級戦犯として起訴されたのは25名。死刑判決を受けたのは東條英機など7名でした。
そして1948年12月23日、皇太子明仁親王(現在の明仁上皇)の誕生日に刑が執行されました。広田は70歳でこの世を去ったのです。
広田弘毅の関連作品
おすすめ書籍・本・漫画
落日燃ゆ
広田を主人公にした歴史小説であり、広田のイメージを「悲劇の宰相」と決定付けた本です。名作に間違いないものの、広田を美化する為に玄洋社の社員である事が省かれていたり、特定の人物を故意に悪く描く描写もあります。
小説はあくまでもフィクションである事を念頭に置いて、読むと良いでしょう。特に広田の妻静子が自殺する場面は涙なしでは読む事が出来ません。
広田弘毅―「悲劇の宰相」の実像
こちらは史実に基づいて広田の実像に迫った本です。実際の広田は年表で紹介した通り、様々な失政も引き起こしており、落日燃ゆを読むだけではその実像が見えてきません。ある意味で歴史小説の弊害かもしれません。
この本と落日燃ゆを読み比べる事で、「史実は史実」「小説は小説」という線引きが出来るのではないでしょうか?
外交官の一生
満州事変から終戦にかけて外交官として活躍した石射猪太郎が残した記録です。石射は広田の後輩であり、ある意味で広田を客観的に評価した一冊でもあります。
堅苦しい本ではなく、各国の元首とのエピソード等も盛り込まれているので、飽きる事なく読めるでしょう。
おすすめの動画
【ゆっくり解説】悲劇の宰相「広田弘毅」の生涯を振り返る! 文官で唯一、A級戦犯になった彼の生涯とは・・・?
広田の生涯について「ゆっくり解説」にて紹介した動画です。徐々に軍部に追従していく過程が分かりやすいです。広田の外交政策は分かりにくいのですが、イメージが掴めるかもしれません。
Glow of the sunset -02
A級戦犯達が判決を下される時と動画です。広田が登場するのは動画の3分ごろ。絞首刑と判決されれば動揺してもおかしくありませんが、広田は一礼しています。その姿が印象的な動画です。
おすすめの映画
東京裁判
アメリカから公開された東京裁判の克明な記録を、デジタルリマスター版として復刻したものです。果たして東京裁判とは何だったのか、A級戦犯達は何を話したのか、真実が記されています。
広田以外のA級戦犯にも興味を持っている方は観る事をお勧めします。
おすすめドラマ
NHK DVD 負けて、勝つ ~戦後を創った男・吉田 茂~
戦後の復興に貢献した吉田茂を主人公にしたドラマです。広田を演じるのは佐野史郎。吉田は広田内閣発足時に閣僚入りする可能性もある等、両者には深い繋がりがありました。戦後史を学ぶ上ではオススメの作品です。
二つの祖国
架空の主人公ながら大河ドラマ化された作品「2つの祖国」をテレビ東京開局55周年に合わせて再度ドラマ化したものです。東京裁判の様子も描かれており、広田を演じるのはリリーフランキー。雰囲気も似ていました。
こちらDVD化はされていませんが、Amazonのprime videoなら視聴可能です。
ちなみに広田を主人公にした「落日燃ゆ」は過去に2回もドラマ化されており、2009年には北大路欣也が演じていました。残念ながらこちらはDVD化はされていません。いつかDVDとして発売されると良いですね。
関連外部リンク
広田弘毅についてのまとめ
今回は広田弘毅の生涯について解説しました。石材屋の息子から総理大臣に上り詰めた努力と才能は賞賛に値します。外交官・外務大臣としての広田は今でも高く評価されているものの、総理大臣としての政策や、近衛内閣での対応は厳しい評価も多いです。
広田は軍部に屈した「悲劇の宰相」だったのか、「アジア主義者として中国への支配を強めるつもり」だったのかは未だに議論されています。一概に悲劇的な人物だったかと言えばそうではなく、評価の難しい人物です。
ただ広田は戦争責任を認めており、東京裁判ではその責任を認めて絞首台に登ったのは事実です。果たして広田は何を思い、絞首刑を受け入れたのか、今では分かりません。
今回の記事を通じて広田弘毅に興味を持っていただけたら幸いです。