キリスト教
性悪説に関する情報をネットで調べていると、「キリスト教の考えは性悪説に基づいている」というものをたまに見かけます。正しくは、キリスト教にある「原罪(げんざい)」と呼ばれる考え方が、荀子が唱えた性悪説の要素があるということなのだそうですが、正しくは間違いです。
原罪とは、人は生まれながらにして罪を背負っているという考え方で、キリスト教ではその罪を神を信じることで得られる恩恵によって救済されることで成り立っています。しかし、性悪説の「悪」に、罪の考え方はなく、「人は弱いものである」という考え方になっているため、そもそもこの話は成立していません。
これがいつ頃混同されてしまったのかは定かではありませんが、性悪説の勘違いの典型である「人は生まれながらにして悪人である」考え方が、この考え方の根底にあることは確かです。また、キリスト教の成立が、性悪説の成立よりも200年ほど後だったことも、理由のひとつでしょう。
とにかく、キリスト教と性悪説にはまったく関係がありません。この両者の違いは、一般教養という形で覚えておいてもいいでしょう。
フロイト
オーストリア出身の精神科医であるジークムント・フロイトは、精神分析学の創始者として有名な人物です。代表的な発見の中には「無意識」があり、私たちが常に意識している「有意識」は意識全体の20%にも満たないとする説を発表した人物でもあります。
実は、フロイトは研究の過程で性悪説を参考にしたという話があります。フロイトは、人は生まれながらにして破壊衝動が備わっていると主張している、その根拠として性悪説を採用したというのです。前提としてフロイトは、人はもともと悪の存在として生まれているという立場に立っていました。
しかし、キリスト教の項目でも触れましたが、これは性悪説の解釈そのものを間違っています。悪は弱い者の意味であるため、フロイトのこの考え方は成立はしないのです。おそらくこれもまた、性悪説の解釈をめぐる勘違いから生まれた話ではないかと言われています。
ビジネス
ビジネスの世界では、性悪説を「相手(取引先や顧客)を悪人だと疑って接する」という考え方で使うことが多いです。本来の意味とは大きくずれているのですが、この解釈になったのにはきちんとした理由があります。
これは性悪説と性善説の考え方の違いにあります。理想主義的な考えが強い性善説に対して、現実主義的な思考をする性悪説は、ビジネス、特に海外とのやり取りではよく使われます。日本よりもビジネスに対してドライな思考が強い海外を相手にするときの、ビジネスマンの思考回路としてよく引き合いに出されます。
実際、日本には「お客様は神様」という考えた方が深く根付いており、「人からではなくあなたから物を買いたい」という顧客も少なくありません。しかし、海外では「同じものなら誰から買っても同じ」の考え方。これが悪かどうかは難しいところですが、少なくとも疑ってかからないと契約ややり取りを反故にされる可能性があることから、性悪説の言葉が使われるようになったようです。
性悪説を学ぶのにおすすめの書籍
より詳しく性悪説について学びたい人は、荀子にまつわる本を読むことがおすすめです。最近は、初心者向けの古典として要約されたものや脚注がされたものなどさまざまなものがあります。ここでは3冊の本をご紹介します。
荀子 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典(角川ソフィア文庫)
日本の古典も出ている「角川ソフィア文庫」のビギナーズ・クラシックから出ている非常に読みやすい1冊です。随所に解説も加えられており、まったく性悪説に知識がない人でも、分かりやすくスラスラと読めるようになっています。
荀子のことば(MY古典)
性悪説を中心とする、荀子が弟子たちに伝えたかった言葉や話しを30篇、厳選して1冊になった本がこちら。荀子がなぜ性悪説の立場から、教育による人間性の向上が大事なのかを詳しく書いた本です。
[新訳]荀子
「性悪説こそ現代人が学ぶべきこと」として出版された1冊です。性悪説から学ぶ現代の生き方が見えるとする著者が、翻訳・解説・学術的根拠を持って展開する、より性悪説に対する考えが深められる本です。
性悪説に関するまとめ
性悪説の考え方や、それを唱えた荀子のこと、性善説との違いなどを紹介してきました。人の本性が善であるか悪であるか、たびたび議論にはなるものの今もって結論の出ないこの論争。おそらくは「信じる人次第」で終わってしまうのですが、性悪説と性善説の両者のバランスが1番大事なのではないでしょうか。どちらが正しいかではなく、どの程度信じるか、これが大事でしょう。
いずれにしても、先人からものを学ぶことは私たちにとって大事なことです。性悪説のように途中で解釈が変わってしまうこともありますが、正しく解釈をし直し、後世に伝えていくことが私たちの氏名でもあるのです。
興味のある人はぜひ、今回ご紹介した性悪説に関する本にも目を通してみてください。みなさんの性悪説の考え方が変わるかもしれませんよ。