安政の大獄とは?原因や結果、主要な関係人物についてわかりやすく解説

戊午の密勅

京都御所
出典:Wikipedia

無勅許調印がなされた後、朝廷から幕府に対して経緯を説明するように何度も勅書が送られました。しかし思うような返答が得られない朝廷は業を煮やし、1858年8月、水戸藩・長州藩に対して直接勅書を送ります。これが戊午の密勅と呼ばれているものです。

幕府を通さず、朝廷と藩が直接やりとりをするというのは幕府にとってありえないことでした。井伊直弼はこれを水戸藩の陰謀ではないかととらえ、水戸藩を始めとする幕府への反対派に対する弾圧が本格化していきます。

橋本左内らの捕縛

間部詮勝
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1858年9月、老中の間部詮勝が上洛、梅田雲浜や橋本左内など反体制派と目された人たちが次々と捕縛されていきます。捕縛された人はいわゆる志士だけではなく、一橋派を中心とする幕閣や皇族・公家の家臣にまで広がっていき、最終的に100人以上を超える人が処罰されることとなります。

特に戊午の密勅の黒幕と決めつけられた水戸藩への弾圧は厳しく、前藩主の徳川斉昭は永蟄居、家老クラスの家臣4名が切腹などで死に追いやられるなど苛烈を極めました。この厳しすぎる弾圧が桜田門外の変を起こす原因となるのです。

安政の大獄の影響

桜田門外の変

水戸浪士集合地の桜田烈士愛宕山遺蹟碑
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戊午の密勅の首謀者とされた水戸藩は、幕府から勅書の返還を求められます。しかしこれを巡って水戸藩内は喧々諤々の大論争になり、簡単に勅書は返還されません。

業を煮やした幕府から水戸藩の改易まで示唆されるようになります。改易とは領地や財産をすべて没収されてしまうことで藩に対する死刑宣告のようなものです。徳川御三家が改易されるなどそれまでの江戸幕府の中ではとても考えられないことでした。

このような厳しい扱いに水戸藩内の過激派の矛先は井伊直弼に向かっていきます。水戸藩士の高橋多一郎、金子孫二郎を中心として直弼の襲撃計画が立てられます。

そしてついに1860年3月3日の早朝、江戸城へ登城中の直弼ら彦根藩の行列へ金子ら18名(水戸藩脱藩者17名、薩摩藩士1名)が襲いかかります。

江戸幕府が開かれて以来、江戸市中で大名行列が襲われることなどありませんでしたから警備は手薄でした。また彦根藩士の中には藩主をほったらかしにして逃げ出したものも少なくなかったようです。

直弼は居合の達人でしたが、襲撃合図のピストルの弾が命中し反撃できるような状況にありませんでした。数人の護衛の善戦も虚しく、直弼は首を取られてしまいます。

ちなみに直弼は事前に襲撃計画があるらしいという情報を得ていたらしいのですが、警護を厚くすることはしませんでした。自分が死ななければならないというのはなかば覚悟していたのかもしれません。弾圧を主導していた直弼の死によって、安政の大獄は終わりを迎えました。

一橋派の復権

島津久光
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南紀派の重鎮だった井伊直弼が暗殺されたことで、それまで謹慎などの処分を受けていた一橋派が復活し、一橋慶喜が将軍後見職に、松平春嶽が政治総裁職に任じられます。これらは文久の改革と呼ばれています。

しかしこの改革は幕府が主導したものではなく、薩摩藩の島津久光(しまづひさみつ)など外様大名や朝廷が主体となって行ったもので、幕府の権威は復活するどころかますます低下していくことにもなりました。

安政の大獄がよくわかる関連書籍

近世日本国民史 安政の大獄

明治から昭和にかけて活躍したジャーナリスト徳富蘇峰が描く安政の大獄。安政の大獄だけで前中後編と3冊もあります。安政の大獄を詳しく知りたい方におすすめです。

世に棲む日日

司馬遼太郎氏による小説です。全4巻で前半2巻は吉田松陰が、後半2巻は高杉晋作が主人公です。吉田松陰の視点から見た安政の大獄を司馬氏のわかりやすく読みやすい文章で読むことができます。

井伊直弼 (幕末維新の個性)

安政の大獄の主役ともいえる井伊直弼に焦点を当てた作品です。従来語られている独裁者直弼像を覆す内容です。

安政の大獄についてのまとめ

以上のように安政の大獄について紹介しました。今回安政の大獄についていろいろと調べてみたのですが、従来悪者とされがちな井伊直弼に対する印象がずいぶん変わりました。

幕府の指導者として日本が植民地にされることだけは避けないといけない、そのためには朝廷の許可がなくても日米修好通商条約に調印することはやむを得ないといった決断はなかなかできるものではありません。

しかしその後の弾圧で多くの有能な人を死に追いやったこともまた事実です。また幕府を守るために行った弾圧が、結局は幕府の寿命を短くしてしまったというのは実に皮肉なことだと感じました。

このように安政の大獄はなかなか奥が深く、さまざまな角度から学ぶことができます。この記事を読んで、もし興味を持たれたのであれば、先ほど紹介した関連書籍や関連記事などでさらに知識を深められてはいかがでしょうか。

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