ラヴクラフトことハワード・フィリップス・ラヴクラフトは、20世紀前半にアメリカで活動を行っていた怪奇小説家です。
「死」「破滅」「狂気」といった主題を、独特の文体と世界観で描き上げた彼の作品群は、現在では『クトゥルフ神話』として体系化されており、多くの読者に読み継がれ、また多くの創作者によって書き継がれる作品群となっています。
非常に難解かつ独特の文章表現が特徴であるため、あくまでカルト的な人気に留まる作家ではありますが、シナリオの主題や独特の邪神の造形など、実は非常に多くの作品に影響を与える、主にファンタジーやSF界隈においては外すことができない人物が、このラヴクラフトという人物なのです。
この記事では、そんな『クトゥルフ神話』の生みの親であるラヴクラフトの人物像や生涯について、なるべく詳細にまとめていきたいと思います。
この記事を書いた人
Webライター
フリーライター、mizuumi(ミズウミ)。大学にて日本史や世界史を中心に、哲学史や法史など幅広い分野の歴史を4年間学ぶ。卒業後は図書館での勤務経験を経てフリーライターへ。独学期間も含めると歴史を学んだ期間は20年にも及ぶ。現在はシナリオライターとしても活動し、歴史を扱うゲームの監修などにも従事。
ラヴクラフトとはどんな人物か
名前 | ハワード・フィリップス・ラヴクラフト |
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誕生日 | 1890年8月20日 |
没日 | 1937年3月15日(享年46歳) |
生地 | アメリカ合衆国、ロードアイランド州、プロヴィデンス |
没地 | アメリカ合衆国、ロードアイランド州、プロヴィデンス |
配偶者 | ソニア・グリーン(1924年~1929年) |
子孫 | なし |
埋葬場所 | アメリカ合衆国 ロード・アイランド州 プロヴィデンス スワン・ポイント墓地 |
ラヴクラフトの生涯をハイライト
ラヴクラフトはアメリカ合衆国のプロヴィデンスに生まれ、幼い頃から文学や絵画に親しむ幼少期を送りました。しかしその一方で、早逝した父と同じく神経症に悩まされるなど、心身に問題を抱えた子供であったことも記録されています。
その後、父の代わりに育ての親となった祖父の事業が悪化すると同時に神経症も悪化。結果として彼はハイスクールを中退し、小説の執筆もやめ、半ば隠者のような生活を送ることになりました。
そして1915年。文章添削の仕事を始めたラヴクラフトは、「仕事の余暇」という扱いで小説の執筆を再開。ただし自身の小説に対して自信を持てなかったことから、この頃に執筆した小説のほとんどは、死後になって日の目を見ることになりました。
そして1921年に母の死を経験し、その3年後には妻であるソニアと結婚。この頃には『ウィアード・テイルズ』という怪奇小説雑誌に作品の投稿を行っていたことが記録されていますが、ラヴクラフトの作品は「長すぎる」「難解すぎる」と編集者からは酷評されており、彼の作品が華々しく認められることはありませんでした。
その後、ラヴクラフトの作品は『ウィアード・テイルズ』の読者からは人気を集めましたが、あくまでもその人気はカルト的でしかなく、次第に生活は困窮。編集者との軋轢も増す中で、ラヴクラフトは小腸ガンに感染してしまい、1937年にこの世を去ることになったのでした。
ラヴクラフトの作風
いわゆる『クトゥルフ神話』として有名なラヴクラフトの作品群は、一般的なホラー小説とは一線を画す幻想的な作風が最大の特徴となっています。
ラヴクラフトは、自身のそういった幻想怪奇作品の主題を「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」と呼び、彼は生涯にわたって「人間を超えた存在によってもたらされる恐怖と狂気」を自身の作品の中に描き続けました。
難解かつ長いその文体は、彼が作品を投稿していた『ウィアード・テイルズ』の編集長であるファーンズワース・ライトのように毛嫌いする人も数多くいたようですが、やはり当時からカルト的なファンがついていたことも記録され、「知る人ぞ知る名作品」として絶賛する読者も、決して少なくなかったようです。
人間同士の関わりや没入感から生まれる”共感”によって生じる恐怖ではなく、完全に理解や常識の外からやってくる「名状しがたい恐怖と狂気」を描き続けたことこそが、ラヴクラフトの真骨頂であると言えるでしょう。
『クトゥルフ神話』とはなにか?
ラヴクラフトという人物とは切っても切り離せない『クトゥルフ神話』という言葉ですが、これはギリシャ神話や北欧神話のように、現実に伝承されてきた神話大系ではありません。
端的に言えば『クトゥルフ神話』とは、ラヴクラフトが作品群の中で描いた架空の神話大系であり、その神話大系をラヴクラフトの友人であるオーガスト・ダーレスらが編纂し、固有名詞を体系化したものという事になります。
主にかつての地球を支配していた異形の生物「旧支配者」の存在を前提とした、宇宙や他次元などの非常に大規模な主題を扱っており、作中においてギリシャ神話や北欧神話などの既存の神話大系は、すべてクトゥルフ神話の派生形であると扱われることになっています。
小説で言うところのスターシステムの要素が強く、様々な作品に同一の存在が登場していることなどから、非常にとっつきにくさはありますが、現代ではTRPGや様々な創作の題材として親しまれているため、興味のある方は詳しく調べてみていただければ幸いです。
作品に描かれたラヴクラフトの趣味嗜好
太宰治の『人間失格』のように、作家の人間性や経験が作風に表れることはままあります。そしてその点で言えば、ラヴクラフトは自身の人間性を、非常に多く作品内に持ち込んでいる作家だと言えるでしょう。
例えば彼の作品群の中でも重要な存在である”旧支配者”などの邪神の造形。これらはイカやタコといった海生生物の影響が強く見られ、転じてラヴクラフトの異常な海産物嫌いを窺い知ることができます。
また、『冷気』などの作品からは彼の寒さ嫌いを読み取ることができる他、作品全般からは、かなり強い人種差別的な視点や、理解できない者に対する排斥の感覚を読み取ることも可能です。
また、「異次元の怪物との抗争」という作品全般の主題についても、当時流行していたというヘレナ・ブラヴァツキーの影響を受けたと目されており、実のところ彼の作品は、彼自身が自分の感情や経験を大きく膨らませる形で作っていったと読み取れそうです。