なんとも表現しがたいほど”アレ”な性格の人物像
ここまでのトピックをお読みいただければお分かりいただける通り、ラヴクラフトの人物像は、正直なところ友人にはなりたくないタイプ、というのがほとんどの方の所感だと思います。
実際、彼自身の性格的な部分にはかなり問題アリな部分が散見され、中でも非常に強い白人至上主義は、まだ白人至上の感覚が根強かった当時の研究者からも「常軌を逸している」と評されるほどのものだったと記録されています。
また、幼少期に母からの溺愛を受けた経験から、食べ物の好き嫌いも非常に多い偏食家だったようで、その当時からの海産物嫌いが、前述のトピックでも書いた通りの邪神のデザインに繋がっていったと言われています。
また、非常に気まぐれで主義主張が一貫していない人物だったことも記録からは読み取れ、ヒトラーの政策に傾倒したかと思えば、後にヒトラーの人種差別的政策の批判を行ったり、見下していたはずの中華文明を持ち上げたりと、彼の主張はほとんど一貫していません。
『クトゥルフ神話』という凄まじいまでの作品群の原型を作った、尊敬すべき作家であることに違いはないラヴクラフトですが、その人間的な性質は言葉を濁すしかない人物だと言えそうです。
現代よりもはるかに低かった生前の評価
現代でこそ”クトゥルフ神話の元祖”として評価を受けているラヴクラフトですが、生前の彼はあまり評価の高くない、いわゆるアマチュアとして扱われていたと言います。
特に、彼が作品を投稿していた『ウィアード・テイルズ』の編集長であったファーンズワース・ライトからは、その文章の難解さと冗長さを批判され、ラヴクラフトもそんな彼の無理解に対する批判を手紙にしたためるなど、犬猿の仲であったことが記録されています。
しかしその一方で、ラヴクラフト作品には当時からカルト的なファンがついており、ラヴクラフトが作品を掲載していた頃は、皮肉なことに『ウィアード・テイルズ』の最盛期だったとも言われています。
とはいえ、彼の生前に発売された作品は『インスマウスの影』一作だけだったこともあり、やはり生前のラヴクラフトの評価は、「一部でカルト的な人気を誇るアマチュア」だったと言うべきでしょう。
現代に描かれるラヴクラフトとその世界
『クトゥルフ神話』という新たな世界観を構築したラヴクラフトは、文豪のキャラクター化などがブームとなっている現代においては、まさに格好の題材として多くの作品に名前が登場しています。
主なものでは、ゲーム『文豪とアルケミスト』では、たどたどしい言葉遣いのミステリアスな男性として登場。また、漫画『文豪ストレイドッグス』では不気味な雰囲気と能力を持つ大男として登場するなど、彼の作品の不気味さから得られるイメージでキャラクターが作られていることがほとんどです。
また、彼の構築した『クトゥルフ神話』の世界観も、多くの漫画やゲーム、小説で書き継がれています。
ライトノベル『這いよれ!ニャル子さん』では、神話に登場する邪神たちが主題として描かれているほか、ゲーム『Fate/Grand Order』でも、邪神と統合されるキャラ付けが成された歴史上の人物が登場。葛飾北斎や楊貴妃、ゴッホなどがそれにあたり、シナリオの重要な要素となっています。
このように、普通では表現しきれないほどの広大な世界観を構築し、現在でも読み継がれる以上に書き継がれている事こそが、ラヴクラフトという作家の最大の特異性なのです。
ラヴクラフトの功績
功績1「現代まで”書き継がれる”作品群の元祖」
シェイクスピアや芥川龍之介のように、読み継がれる名文というものは世界中に広く存在しています。しかしその一方で、”書き継がれる”作品というのは、世界広しと言えどもラヴクラフトの作品群を除いて他にないのではないでしょうか。
前のトピックでも度々書かせていただいている通り、ラヴクラフトの構築した『クトゥルフ神話』の世界観は非常に多くの作品に取り上げられ、現代でもクトゥルフの世界は広がりを止めていません。既にラヴクラフトがこの世を去って80年以上が経っていることを考えると、それがどれだけ異常なことかはご理解いただけるでしょう。
ともかく、”読み継がれる名文”ではなく”書き継がれる世界観”を構築したという点において、ラヴクラフトは唯一無二の作家であると言えそうです。
功績2「無意識のうちに後進を育てていたとも言われる」
生涯を通じて「アマチュア作家」としての評価を覆すことが無く、作家として大成することができなかったラヴクラフトは、主に他の作家の文章を添削することを生業としていました。
ラヴクラフトはこの作業を非常に安い単価で請け負っていたにもかかわらず、時には原文が残らないほどの書き換えを行っていたことも記録され、彼の活動は半ばゴーストライターに近いものだったという事も記録からわかっています。
そして、このような活動は後進育成の効果を果たすことにもなり、彼の添削を受けたことでクトゥルフ神話の世界観を体系化するに至ったオーガスト・ダーレスをはじめ、多くのクトゥルフ神話作家を生み出す結果にも繋がりました。
また、後世においては『キャリー』や『IT』で知られるスティーブン・キングや、『魔界都市』の菊地秀行に影響を与えたことも知られ、彼の構築した真新しい世界観は、多くの更新に影響を与え、育てるものとして大成する結果を生んでいます。