1863年 – 54歳「南北戦争の転換点」
ゲティスバーグの戦いに勝利
1863年、ペンシルベニア州アダムズ郡近郊の町であるゲティスバーグにおいて、アメリカ合衆国軍はアメリカ連合国軍に勝利します。この戦いは、双方共に総力戦となり、7月1日から3日間にわたって行われました。
ゲティスバーグの戦いは、南北戦争史上で最大の激戦となり、両軍に大きな損害をもたらします。しかし、この戦いの結果が南北戦争の結末に影響を与える大きな転換点となったのです。
ゲティスバーグは、鉄道や主要道路が交差しており、補給の要所として地理的に著しく重要な地域でした。そのため、この地域を抑えたアメリカ合衆国は、それまで不利だった形勢を逆転することができたのです。
ゲティスバーグ演説
ゲティスバーグ演説とは、ゲティスバーグの戦いに勝利した後、ゲティスバーグにある国立戦没者墓地の追悼式典においてリンカーンが行った演説です。
この演説において、リンカーンは自由や平等を掲げる国家理念と民主政治の未来を守る決意を表明しました。そして、リンカーンが主張した民主主義の基礎は、アメリカ合衆国における新たな自由が誕生したことを意味していたのです。
また、第二次世界大戦後のアメリカ占領下にあった日本において、GHQによって草案された日本国憲法には、ゲティスバーグ演説の一節が組み込まれています。リンカーンの演説は、現代の日本にも影響を与えているのです。
1864年 – 55歳「1864年アメリカ合衆国大統領選挙」
スティーブンス砦の戦い
1864年、将軍ジュバル・アーリー率いる南軍が首都であるワシントンD.C.を襲撃します。この戦いは、スティーブンス砦の戦いと呼ばれており、アメリカ連合国の首都を包囲する北軍の戦力を削ぐことを目的に引き起こされました。
最終的に、スティーブンス砦の戦いは首都ワシントンD.C.を守り切った北軍の勝利に終わります。この戦いにおいても、南軍の思惑は外れ、引き続き南北戦争は北軍有利な展開が続いていったのです。
アメリカ合衆国大統領選挙に再選
1864年、南北戦争がまだ終わっていない中で、アメリカ合衆国大統領選挙が行われました。そして、現職であるリンカーンが対立候補と大きく差をつけて圧倒的な勝利を収めたのです。
この選挙において、共和党は国民統一党という名称に変更しており、彼らは選挙の期間に少数派であった民主党を徹底的に非難し、リンカーンの勝利を確実なものとしていました。また、この選挙には、アメリカ連合国に加入している州はどこも参加していませんでした。
その後、リンカーンは第二次大統領就任演説を行いました。そして、その演説において、リンカーン自身は無宗派であったにもかかわらず、南北戦争における両勢力が被った損失は神の意志であると主張し、民衆の注目を集めたのです。
1865年 – 56歳「南北戦争終結後、暗殺される」
南北戦争終結
1865年、南軍の将軍ロバート・エドワード・リーの降伏とアメリカ連合国の首都リッチモンドの陥落により、南北戦争は終結します。その後、リンカーンはリッチモンドを訪問し、解放奴隷たちによって英雄として歓迎されました。
しかし、解放された黒人奴隷たちを待っていたのは、すでに根深く浸透していた人種差別でした。その影響を受けて、20世紀前半には南部に居住していたアフリカ系アメリカ人による北部への大移動が発生しました。
また、奴隷制が廃止された結果、南部諸州は安価な労働力を喪失し、一部の地域は深刻な不況に陥ってしまいます。そして、崩壊した経済システムを修復していく過程で、南部白人と解放された奴隷たちとの間に存在していた溝はさらに広がっていったのです。
フォード劇場で暗殺される
1865年4月14日、ワシントンD.C.にあるフォード劇場において妻や従者と共に喜劇を観ていたリンカーンは、密かに劇場に入り込んでいた俳優のジョン・ウィルクス・ブースという男によって頭部を至近距離から撃たれ、暗殺されました。
この事件の犯人であるブースは、南北戦争の結果に強い不満を抱いていたアメリカ連合国の狂信的な支持者でした。その後、彼は奇襲の成功に歓喜しながら外へ飛び出し、馬で逃亡しましたが、ヴァージニア州で発見され、抵抗の末に射殺されます。
この暗殺事件により、リンカーンはアメリカ史上初めて暗殺された大統領となりました。そして、国中がリンカーンの死を悲しみ、葬儀には数十万人の民衆が集まったのです。
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エイブラハム・リンカン―「奴隷解放宣言」を発して奴隷制度を廃止し、民主主義の指針を示したアメリカの大統領 (伝記 世界を変えた人々)
リンカーン大統領の功績について、説明が非常に丁寧でわかりやすく、子供も読みやすい本です。奴隷制度がどのようなものであったかということや、南北戦争が起こるまでの経緯について、分かりやすい文章や写真、絵によって理解することができました。
また、この本は子供向けでありながら、大人でも満足できるほどに内容が充実しています。奴隷制度や南北戦争だけでなく、アメリカの建国理念や奴隷解放宣言など、リンカーンが築き上げたアメリカ合衆国の歴史について幅広く学ぶことができるのです。この伝記シリーズは子供向けとされていますが、大人にもオススメできる素晴らしい1冊と言えます。
リンカーン演説集 (岩波文庫 白 12-1)
南北戦争時、アメリカ合衆国が分裂の危機にある中で、国民の団結を呼びかけながら奴隷解放を目指したエイブラハム・リンカーン。この本には、多くの功績を残した偉大な大統領であるリンカーンの演説や書簡が収録されています。
「人民の人民による人民のための政治」で有名なゲティスバーグ演説や、聖書に登場する言葉を引用した多くの演説などからは、自由、平等、統一を訴えるリンカーンの熱意が伝わってきました。現代においても、リンカーンの言葉は人々の心を動かします。アメリカ史に興味を持つきっかけとなった1冊です。
南北戦争の時代 19世紀 (岩波新書)
この本は、アメリカ合衆国の歴史を4巻にまとめたシリーズの第2巻です。歴史上において、自国が戦場となる対外戦争を経験していないアメリカ合衆国にとって、南北戦争は我々の想像以上に重要な意味を持っています。
そして、南北戦争後に根強く残り続けている人種差別や経済発展期における経済格差の拡大が、現代のアメリカ合衆国における社会問題の下地となったということもよく理解できる1冊です。
南北戦争は、多くの問題を抱えていたアメリカ社会の転換点であり、その後アメリカが突き進むことになる帝国主義の始まりでもあります。19世紀のアメリカ史を知ることは、20世紀の歴史を学ぶ上でも必要不可欠な要素であり、現代の日本を理解するためにも重要なポイントなのです。
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リンカーン
巨匠スティーブン・スピルバーグ監督が手掛けた、アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンの人生を中心とする政治と戦争に関する映画です。この作品では、19世紀のアメリカ合衆国について学ぶことができますが、日本とは違ったアメリカ合衆国の政治や地理についての知識が求められます。
南北戦争についても迫っていく今作において、穏やかで強い男に見えるリンカーンが悩み、揺らぎ、疲弊する場面も見ることができます。そして、それらの心境を乗り越えて迷っていた心を定め、優れたリーダーとして仲間を導いていく姿は印象的です。
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リンカーンについてのまとめ
今回はリンカーンについて解説しました。
アメリカで最も尊敬されている大統領の1人であるリンカーンは、分断されかけていた国家を統一し、黒人奴隷を解放したことで多くの人々の自由と民主主義を守った偉大な人物であることがわかりました。彼の活躍こそが、その後のアメリカ合衆国における繁栄の礎となったのです。
しかし、奴隷解放後も残り続けた人種差別問題や、西部開拓によって土地や命を奪われることになったアメリカ先住民の立場を忘れてはいけません。確かにリンカーンは、アメリカの歴史において偉大な功績を残した大統領となりましたが、完全無欠の英雄というわけではないのです。
この記事ではリンカーンについて、人物像や生涯、功績などについて紹介しましたが、それに続くアメリカ合衆国の近代史や現代史についてより詳しく調べてみるのも面白いでしょう。
それでは長い時間お付き合いいただき、誠にありがとうございました。