古事記とは?どんな内容?特徴や作者、成り立ち、日本書紀との違いなどを紹介

表記法は太安万侶が生み出した

表記はすべて漢字で書かれている古事記

古事記は全部漢字で書かれていますが、変体漢文という変わった表記法が使われています。当時の日本語は音声言語で文字を持っていなかったため、文字を表記するときには中国から入ってきた漢文を使っていました。

しかし太安万侶は古事記を書くにあたり、日本の伝承は日本の言葉で表現すべきだと考えます。それには日本の音に一文字ずつ漢字を当てていく音読みの方法もありました。

たとえば「ヌナトモモユラニ」は「奴那登母々由良迩」と漢字の意味に関係なく一音に一文字(音読み)をあてることで、玉の音が軽く、ユラユラと揺れる様子をそのまま表現できています。ただしこれは今でいえばすべてをひらがなで書くようなもの。全部これで表記すると無駄に長くなってしまいます。

そこで太安万侶が生み出したのが、訓(漢文)を下書きにしながらも、日本語で伝えたい場面や固有名詞などは音読みにするという音訓両用という変体漢文でした。ただしこの方法を使った場合、音と訓のどちらで読めばよいかわかりません。そこで音、訓という読み方も表記しています。

日本書紀との違い

古事記とほぼ同時期に作られた正史・日本書紀

天武天皇は日本書紀の制作も命じています。日本書紀は約40年かけて、古事記に遅れること8年後の720年に完成しました。

なぜ歴史書を2種類作ったのかというと、日本書紀は外国に向けた日本の正史、古事記は国内向けに天皇の正統性を示そうとしたものという目時の違いだったのではないかといわれています。両書の具体的な違いは以下の通りです。

古事記日本書紀
完成年712年720年
巻数全3巻全30巻と系図1巻
編者稗田阿礼、
太安万侶
川島皇子、
舎人親王ほか
収録期間天地初発
~推古天皇
天地開闢
~持統天皇
文体変体漢文漢文
日本書紀の編纂を率いた舎人親王

日本書紀は10名以上のチームに編纂させた国家の大事業で、当代一流の学者たちも加わったとみられています。一方で古事記は2人の天才がまとめたものでした。

気になる内容の違いですが、古事記が叙情豊かな物語風にまとめているのに対し、日本書紀は淡々と時系列に出来事を並べています。古事記は「その人が何をしたか」を、日本書紀は「いつ何があったかという出来事」をそれぞれ重視していたようです。

また、それぞれの目的の違いもあるのか、同じ神話でも内容が異なり、片方にしかない部分もあります。また、日本書紀は圧倒的に天皇の事績部分が古事記より多いのも特徴です。

古事記と日本書紀の違いや共通点は?神話の真実や編纂した時代も解説

風土記・万葉集との関わり

出雲国風土記

風土記は奈良時代の初め、元明天皇が各国の様子(地名、産物、状態、土地の起原、伝承など)をまとめ提出させた各国の地誌です。現存しているのは出雲国、播磨国、常陸国、豊後国、肥前国の5つの国の風土記で、このうち出雲国風土記のみがほぼ完全な形、他の4つは一部が欠けた状態で残されています。

これ以外にも他の書物に引用された形で一部だけが残る「風土記逸文」があります。

古事記と風土記は共通する神話であってもその内容が少しずつ違う場合もあり、例えばオオクニヌシの国造り神話は古事記と各国の風土記で少しずつ内容が異なっています。このように古事記と風土記の物語を比較することで日本の神話の多様性や豊かさを知ることができます。

日本最古の和歌集・万葉集

万葉集は奈良時代後期にまとめられた日本に現存する最古の和歌集です。天皇から庶民、作者不明の歌まであらゆる階層の人々が詠んだ歌が約4500首収録されています。大伴家持が編纂されたとされていますが、古事記の編纂者でもある太安万侶が関わっていたという説もあります。

古事記と風土記、万葉集は直接の関係はありませんが、いずれも奈良時代に成立しており、この時代の歴史や風俗、言語を知る手掛かりになります。

古事記のその後と本居宣長の古事記伝

本居宣長の古事記伝

今では日本書紀以上に多くの人に親しまれている古事記ですが、じつは江戸時代まで日本の歴史書といえば日本書紀で、古事記はせいぜいその参考資料といった扱いをされていました。そのため江戸時代には古事記は後世に作られたものという偽書説も飛び出します。

一方で、江戸時代に賀茂真淵など古事記を研究する人が増えて注目を集めるようになります。そのような中で国学者本居宣長(もとおりのりなが)が古事記こそが日本の心を伝えるものと考え、35年間かけて古事記の研究に取り組み、全44巻からなる古事記の注釈書『古事記伝』を完成させました。

これは言葉の読み方や意味、日本人の心、古事記に登場するワニやイルカはどのような生き物かなど多角的な面から研究をした労作です。この古事記伝の刊行により、古事記は一躍注目を集めるようになりました。そして古事記伝は現代まで古事記研究の基本となっています。

なお、古事記の原本は残されていません。写本の伊勢本系統と卜部本系統が伝わっており、現在最も古い写本は伊勢本系統に属する14世紀の真福寺本(国宝)です。

本居宣長とはどんな人?生涯・年表まとめ【古事記伝や源氏物語、名言や思想についても紹介】

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