天才作家!伊藤計劃とはどんな人?生涯・年表まとめ【死因や名言、作品についても紹介】

伊藤計劃(いとうけいかく)は、2000年代に活躍したSF作家です。彼の発表した作品はとても少なく、作家としての活動期間は実質2年だけと極めて短いのですが、そのSFでありながらリアルに感じる世界観や、文体、装飾的な独特の言語センスは、現在でも多くのSFファンの心をつかんで離しません。

伊藤計劃

彼の代表作である3本の長編作品は、2015年に『Project.Itoh』と題されてアニメーション映画化されており、その映像のクオリティの高さや独創的な主題によって、SFファン以外にも伊藤計劃の名を大きく広めることとなりました。

そんな少ない作品数でありながら、伊藤は『ブレイブ・ストーリー』等で名を知られる宮部みゆきや、『ゴールデンスランバー』『アヒルと鴨のコインロッカー』等でおなじみの伊坂幸太郎などの有名作家から多大なリスペクトを受けています。処女作である『虐殺器官』について、宮部からは「私には3度生まれ変わってもこの作品は描けない」、伊坂からは「才能に嫉妬を覚え、ファンになった」と激賞され、多くの作家やSFファンから「ゼロ年代SFのベスト」とまで称されている人物こそが、伊藤計劃という作家なのです。

有名作家の宮部みゆきからも高い評価を得ている

この記事では、そんな彼がどんな人生を歩み、どのような作品を描いてきたのかを深堀りしていきたいと思います。大学時代、伊藤計劃の作品をたまたま手に取ったことで「見える世界が変わった」とすら感じ、現在では伊藤計劃作品の二次創作をネット上で執筆するまでの熱狂的なファンになってしまった筆者が、この記事を担当させていただきます。

この記事を書いた人

Webライター

ミズウミ

フリーライター、mizuumi(ミズウミ)。大学にて日本史や世界史を中心に、哲学史や法史など幅広い分野の歴史を4年間学ぶ。卒業後は図書館での勤務経験を経てフリーライターへ。独学期間も含めると歴史を学んだ期間は20年にも及ぶ。現在はシナリオライターとしても活動し、歴史を扱うゲームの監修などにも従事。

伊藤計劃とはどんな人物か

ペンネーム伊藤計劃
名前伊藤聡
誕生日1974年10月14日
生地東京都
没日2009年3月20日(34歳没)
没地不明
配偶者なし
埋葬場所不明
代表作品・『虐殺器官』
・『ハーモニー』
・『屍者の帝国』(円城塔との共著)

伊藤計劃の生涯をハイライト

1974年10月14日、東京都で生まれた伊藤計劃。家族構成については、父母と3つ下の妹がいることは取材によって明らかになっていますが、それ以上のことは明らかになっていません。

かねてより映画や漫画などの創作に強い興味を持っていた彼は、武蔵野美術大学の美術学部映像学科に入学し、そこから自身の手による創作活動をスタートさせました。

伊藤の母校である武蔵野美術大学は、彼の創作活動が表舞台に出る原点ともなった。

美術大学という創作の道に進んだ伊藤は、大学在学中である1999年に、漫画作品『ネイキッド』でアフタヌーン四季賞を受賞。同時期には尊敬するクリエイターである小島秀夫との出会いも経験し、彼自身の抱く世界観を明確化していくことになります。

伊藤が創作者としてデビューした作品『ネイキッド』は、『蘇る伊藤計劃』に収録されている。

そうして大学を卒業し、Webディレクターとして働き始めた伊藤でしたが、ここで彼を病魔が襲うことになります。「ユーイング肉腫」という治療の難しいガンであると宣告され、完治は絶望視された伊藤でしたが、彼は入退院を繰り返しつつ執筆活動を敢行。

そして転移した肺ガンの寛解を得た2006年、わずか10日間で処女作である『虐殺器官』を書き上げ、文壇に発表しました。壮絶な状況下で執筆され、2007年に読者の目に触れる形で発表された『虐殺器官』は、多くのSFファンから好評を博し、伊藤計劃の名は一躍文壇に知れ渡ることとなったのです。

その後も彼は執筆活動を続け、尊敬する小島秀夫の依頼による『メタルギアソリッド4』のノベライズや、長編作品である『ハーモニー』を発表。また、『ハーモニー』を発表した後も歴史や文学、技術や心理学などの広範な資料を集め、次回作の構想を練っていたことが記録されています。

しかし、病魔は伊藤の体を蝕み続け、2009年の3月20日、伊藤は病院のベッドの上で34年間の短い生涯を終えました。2009年の12月に、『ハーモニー』は様々な賞を受賞することになるのですが、その事実を伊藤が知ることはなかったのです。

構想段階だった『屍者の帝国』の刊行や、3作品のアニメ映画化など、伊藤の作品は彼の死後も息づき続けている。

しかし、その死後も“伊藤計劃”の名は文壇に残り続けることになりました。

2012年には伊藤のプロットと遺稿を引き継ぐ形で、円城塔が『屍者の帝国』を「伊藤計劃との共著」という形式で刊行。2015年から2017年にかけて、彼の作品である『屍者の帝国』『ハーモニー』『虐殺器官』のアニメ映画が公開されるなど、多数のメディア展開が行われ、伊藤の名はなお広く知れ渡ることになったのです。

SFが伊藤の文学ジャンル

伊藤計劃は主にSFジャンルの作品を執筆する作家でした。

彼はSFという文学ジャンルについて、「社会とテクノロジーのダイナミクスを扱う唯一の小説ジャンル」と認識していたようです。そんな彼の認識を知ってから作品を読むと、「これはたしかに”伊藤計劃のSF”である」と感じられると思います。

伊藤はサイバーパンクのファンだった

伊藤はSFの中でも「サイバーパンク」と呼ばれるジャンルを特に好み、好きな作家として「サイバーパンクブームの火付け役」であるブルース・スターリングの名を挙げています。

サイバーパンクとは、科学技術と人体の融合など、様々なガジェットによる「過剰に進み過ぎた社会」をメインに据えた作品の総称です。現在で言えば、『マトリックス』や『ソードアートオンライン』、あるいは少々古いですが『ロックマンエグゼ』あたりが、広い意味でのそのジャンルに当たると言える作品でしょう。

そのようなサイバーパンク的な傾向は伊藤計劃の執筆した作品にも色濃く見られ、『虐殺器官』と『ハーモニー』は共に、社会に根差したガジェットが物語の主題として深く組み込まれている作品となっています。

「一人称視点」が文章の特徴

主人公視点の一人称作品が特徴のひとつ

伊藤計劃の文章の特徴的な点として特に顕著な点は、全ての作品が主人公の視点で描かれた1人称作品であるという事です。ライトノベルや推理小説でよく見られるスタイルですが、伊藤の描く複雑なキャラクター性が、主人公の思考が読者に直接伝わることで幾分か分かりやすくなっており、また、「主人公以外の思考が読者に伝わらないこと」「主人公の信じていることが、たとえ誤認であっても真実として描かれること」を利用したトリックとしても、その文体は活用されています。

また、ルビやレトリックによる文章装飾や、体言止めの多用、”?”マークの代わりに”…”が使われていることも大きな特徴です。伊藤はこれらの部分に関して、ウィリアム・ギブスンの作品である『ニューロマンサー』を邦訳した、黒丸尚の影響を受けていることを明かしています。

文体にも伊藤の個性が現れている

伊藤の作品は基本的に「登場人物から読者への語り掛け」の形式で描かれており、そのため小説自体が、登場人物の回想やテキストのような形式で描かれていることも特徴的です。小説ではなく誰かの日記を読んでいるような、あるいは登場人物がそのまま読者に呼び掛けているようなその文体が、現在も続く伊藤計劃のカリスマ性を高めることに、一役買っていると言えるかもしれません。

また、SF作品の中でも特に世界観の構成が緻密で、それ故に造語が多いことも特徴。「侵入鞘(イントルード・ポッド)」「肉旅客機(ミート・プレーン)」「空飛ぶ海苔(フライング・シーウィード)」など、それだけではわけのわからない単語の目白押しですが、それ故に現実とは異なる、「リアルな創作の世界」を堪能することができるのも、伊藤計劃作品の大きな特徴となっています。伊藤自身は「人や組織、架空の名前を考えているのが一番楽しい」と、円城塔との対談で語っており、その文体は純粋な彼の趣味であることが分かるでしょう。

「生」と「死」という命題を扱うことも

生と死をテーマにした作品が多い

伊藤計劃の作品は、主題として「生と死」「生きるとは何か」「人間とは何か」という難しい命題を扱っていることが多く、その答えは作品を通して、割合一貫したものになっています。また、サイバーパンクな世界を通じて「社会構造の中に生きる人間」と「その社会に馴染めない人間」の対比構造を描くことも多く、その作風は「行き過ぎた現代社会」を描いた『虐殺器官』や、「ユートピアの臨界点」を描いた『ハーモニー』に、特に色濃く表現されています。

そのような重い主題と、それに対する彼なりの解答を描き、「教育的」「啓示的」な作品だと受け取られがちな伊藤計劃の作品ですが、伊藤自身は自身の描いた『虐殺器官』について「現代社会における閉塞感とか悲壮感だとかを描いた作品ではない」「作中で目指したものは『こんな状況でも人間は無神経に生きてるぞ』と言う爽快感」だと発言しています。

筆者としてもいまだに「爽快感!?」となる発言ではありますが、伊藤計劃の類稀な観察眼や、ブラックユーモアを理解することができれば、たしかにそのように読むことができるのかもしれません。

伊藤計劃の趣味は?

伊藤は大の映画ファンだった

伊藤計劃の好んでいたものとして真っ先に挙げられるのは、やはり”映画”と”文学”でしょう。友人の間では「映画と漫画と音楽に夢中になり過ぎて二浪したのだ」とも言われていたようです。

伊藤の映画や文学に関する造詣の深さは、確かに並大抵のものではなく、彼の処女作である『虐殺器官』の本文をパラ読みするだけでも『プライベート・ライアン』『太陽の帝国』『マッドマックス』などの、実在する映画や文学作品の名前が登場しています。それも、単純に名前が「登場」するだけではなく、きちんとストーリーの展開に則した形で名前が「使用」されているため、伊藤が本気でそれらの作品について熟知したうえでストーリーに使用していることが、一読するだけでも理解できるでしょう。

ゲームやアニメにも関心があった

ゲームやアニメなども好んでいたようで、特にコナミから発売されているゲーム作品、『メタルギア』シリーズを好んでいたことが有名です。伊藤と『メタルギア』については、ただの作品とそのファン以上の関わりがあるのですが、その点は後のトピックで語らせていただきます。

また、伊藤は映画に対しての評論活動も積極的に行っていました。『伊藤計劃:第弐位相』と名付けられた彼の個人ブログは、書籍としての出版も成されているほか、現在もネット上にそのままの形で保存されています。

ブログの中で伊藤は、東西を問わず様々な映画についての評論を行っており、その異常なまでの創作に対する審美眼を見ることができます。前述の大学時代の後輩である篠房六郎は、伊藤の映画評論について「自分がぼんやりと見ていたものを、多角的かつ微細にとらえ、新たな視点を提供してくれる」と絶賛しています。「褒め過ぎでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そんな方も伊藤計劃のブログを読めば、それが過剰な褒め方ではないことを理解してくれるでしょう。

ともかく、伊藤が創作を好み、それに対するあまりにも深すぎる知見を持っていたことについては、疑う余地は全くありません。

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1 COMMENT

匿名

扱うジャンルがSFである限りは彼の扱った意識や死の概念、SF的ガジェットもやがては古びていくかもしれません。
しかし、彼の特異なリーダービリティだけは現代の日本SF界における一つの到達点だと思っているのでこれからも読者を獲得し続けるんだろうと思っています。
蠱惑的と表現される乱歩の文体がそうであるように。

片手間で終わっていない素晴らしいまとめだと思いました。お疲れ様でした。

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