天才作家!伊藤計劃とはどんな人?生涯・年表まとめ【死因や名言、作品についても紹介】

2006年 – 32歳「処女作である『虐殺器官』を執筆」

『虐殺器官』を執筆し、文壇に発表

処女作の執筆を開始

この年の5月、ガンが一応の寛解を見せたため、伊藤はこの時とばかりに処女作の執筆を開始。

僅か10日ばかりで書き上げられたその作品『虐殺器官』は、この年の「小松左京賞」の最終候補にまで残るも、あえなく落選。しかし伊藤はそのことをあまり気にすることはなく、次回作の執筆に意欲を燃やし、次に応募する賞を選んでいたようです。

ところが、伊藤とウェブ上で親交があった作家・円城塔が、伊藤に「早川書房への『虐殺器官』の原稿の応募」を提案。伊藤もそれに乗る形で早川書房に原稿を送り、それによって翌年に『虐殺器官』が刊行されることになるのです。

伊藤はこの時のエピソードについて、「円城さんからの勧めが無ければ、僕のデビューはありませんでした」「円城さんは僕の恩人だと思っています」と語っています。

2007年 – 33歳「『虐殺器官』の刊行」

『虐殺器官』にて、華々しく文壇デビュー

賞の受賞で伊藤の認知度が高まった

この年の6月に、ハヤカワSFシリーズJコレクションより『虐殺器官』が刊行。これにより伊藤計劃は、名実ともに作家として文壇にデビューすることになるのです。

『虐殺器官』は、この年の「ベストSF2007国内篇1位」「ゼロ年代SFベスト国内篇1位」を受賞し、伊藤計劃という新人作家の名前を、文壇に知らしめる作品となりました。この時の「ベストSF2007」の第2位は、円城塔の『Self-Reference ENGINE』であり、彼らは後の対談で、お互いに「相手の方が1位だと思っていた」と語っています。

しかし、この時期の伊藤の病状は再び悪化。寛解と再発を繰り返すガンと伊藤の闘いの記録は、彼のブログ、『伊藤計劃:第弐位相』で読むことが可能です。

2008年 – 34歳「ノベライズ版『メタルギア』、『ハーモニー』の刊行」

『METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS』

大ファンだったメタルギアのノベライズを担当

この年、伊藤計劃は2本の作品を世に送り出しています。6月に発売されたこの作品は、伊藤が敬愛する小島秀夫から依頼を受けて執筆した、『メタルギアソリッド4』のノベライズ版です。

一般にゲームのノベライズは、ライトノベル的な軽いものであることが多いのですが、伊藤はこの作品を「再読ができる一本の小説」として執筆。その重厚な出来栄えには、小島秀夫も舌を撒いたと言われています。

伊藤計劃らしさがありながらも、『メタルギアソリッド4』という原作が存在することによる、話の筋の分かりやすさが何よりの特徴。伊藤計劃作品が「難しすぎる」と感じた方、あるいは『メタルギアシリーズ』のファンだという方は、まずはこの作品から伊藤計劃の世界に入ると良いかもしれません。

『ハーモニー』と「物語ること」について

物語の視点に一石を投じた

12月には、伊藤計劃の代表作であり遺作でもある『ハーモニー』が刊行。SF好きだけでなく、多くの作家や読書家にも、伊藤計劃の名前を大きく刻み込む作品となりました。SF書評家・評論家の大森望は、『ハーモニー』のことを指して「21世紀最高の比類なき恐怖小説」と評価しています。

また、この頃になると伊藤は様々な媒体で、「物語る」という事についての持論を遺しています。『ハーモニー』の刊行に当たってのインタビューでは、「3人称視点(神様視点)に対する違和感」「物語は誰かに寄生しないと存在しえない」「『神が物語を書いている』ということが受け入れがたい」などの持論も語られ、「物語るとは?」という不変の議論に一石を投じました。

そのやり取りから、伊藤はあくまでも自身の事を「物語世界を見る神や書き手ではなく、物語の中に存在する観察者であり聞き手である」と位置付けていたように思えます。あくまでこの記事の筆者の解釈なのですが、そのように考えると、「伊藤計劃は死してカリスマになった」という主張には苦言を呈したくなるところです。

病状の悪化

病魔は着々と進行した

『ハーモニー』によって、文壇にその名を轟かせた伊藤でしたが、彼の中に巣食う病魔は着々と進行していました。この頃の伊藤の体には転移した6つのガンが。もはや通常の治療は意味をなさず、抗がん剤やモルヒネによる辛い闘病が、この時期の伊藤を襲っていたようです。 そのような状況の中でも、伊藤は次回作の原案を構想し、プロットと冒頭の数ページを執筆。担当の編集者に「次は死者を労働力にする世界を書きます」と口にしていたと言われており、彼が前向きに生きようとしていたことが伝わります。そしてその原案こそが、後に円城塔によって完成を見ることになる『屍者の帝国』に繋がっていくこととなりました。

2009年 – 34歳「早すぎる死と、遅すぎた受賞」

あまりにも早い死

この年の初めになると、伊藤の病状は急速に悪化。彼は食欲も失い、ブログの更新も1月初めで止まっています。

2月に小島秀夫が見舞いに訪れた際にも、当初はほとんど反応を示さなかったようですが、小島が未発表の新作『メタルギアソリッド ピースウォーカー』の構想を話すと、伊藤は元気を取り戻し「完成するまで頑張ります」と口にしたそうです。

しかし、小島との約束は果たされることはありませんでした。3月20日、伊藤計劃は病院のベッドで静かに永眠。その最期の様子については、「夕食のカレーを数口食べ、そのまま眠るようにこの世を去ってしまった」と、伊藤の母が星雲賞授賞式にて話されています。

小島秀夫は伊藤の死に際し、2010年に発売された『メタルギアソリッド ピースウォーカー』のエンディングにて、「この『PEACE WALKER』を伊藤計劃氏に捧ぐ」とのメッセージを収録して哀悼しています。また、後に伊藤に依頼する予定だった『メタルギアソリッド3』『メタルギアソリッド ピースウォーカー』のノベライズについては、長谷敏司と野島一人にそれぞれ受け継がれ、2014年に刊行。伊藤計劃の重厚な世界観を受け継いだ「再読可能なノベライズ」として、いずれも高い評価を得ました。

『ハーモニー』にて、様々な賞を席巻

数々の賞で脚光を浴びる

伊藤の死から9カ月が過ぎた12月。『ハーモニー』は多くの賞を受けることになりました。

まず「日本SF大賞」の大賞。通常、故人の受章は特別賞で行われていましたが、『ハーモニー』は大賞を受賞することになりました。故人の受章は前例がなく、それだけでも『ハーモニー』が文壇で高い評価を得ていたことが伝わります。

次に「第40回星雲賞」。こちらもSFに関する賞ですが、SF大賞とは異なり、読者からの投票で受賞作が決まる形式となっています。作家ではなく読者の目線から見ても、『ハーモニー』は鮮烈な作品だったのでしょう。

そして「ベストSF2009国内篇第1位」。『虐殺器官』に続き、伊藤計劃は2作目でも同じ賞を取ることとなったのです。

しかし、それらの賞を受けたことを、伊藤計劃本人が知ることはありませんでした。多くの名誉ある賞を受け、次回作が期待されている中で、伊藤計劃は世を去ってしまったのです。

しかし、彼の歩みはまだ終わってはいませんでした。

2010年 – ―歳「英訳版『ハーモニー』が刊行」

英訳版『ハーモニー』が刊行

英語版作品の発行

この年の7月、アメリカの翻訳SFレーベル”Haikasoru”のアレクサンダー・O・スミスにより、『ハーモニー』の英訳版が刊行。英語圏にも「Project Itoh」の名が轟くことになりました。

『ハーモニー』はアメリカでも非常に高い評価を受け、この年のフィリップ・K・ディック賞で特別賞を受賞しています。

また、2012年には『虐殺器官』の英訳版も”Haikasoru”から刊行。『虐殺器官』は韓国、中国でも翻訳されて出版されており、伊藤計劃の名は、今もなお全世界に広がっているのです。

2012年 – ―歳「円城塔により『屍者の帝国』が刊行」

『屍者の帝国』

共同著者 円城塔

8月、伊藤が残した30ページ分ほどの原稿と未完のプロットを元に、円城塔が『屍者の帝国』を発表。「伊藤計劃と円城塔の共著」として位置づけられた作品は、大きな話題を呼びました。

『屍者の帝国』は、「第33回日本SF大賞特別賞」「第44回星雲賞日本長編部門受賞」「第2回SUGOI JAPAN Awardエンタメ小説部門1位」を受賞し、伊藤計劃らしさと円城塔らしさが混ぜ合わされた傑作として、高い評価を受けています。

円城は『屍者の帝国』について、「伊藤計劃ならばどう書くか、という文章ではない」「伊藤計劃の文章を受けた円城塔がどう書くか」と発言しています。「伊藤計劃をトレースした円城塔の世界」ではなく「円城塔が描く伊藤計劃の世界」が、『屍者の帝国』なのだという事でしょう。

もちろん『屍者の帝国』が面白い作品だというのは純然たる事実ですが、「伊藤計劃による『屍者の帝国』」が、どのような作品だったのか。想像してみるのも面白いかもしれません。

2015年 – ―歳「『屍者の帝国』『ハーモニー』の映画化と、3作品のコミカライズ」

『Project:Itoh』第1段・『屍者の帝国』

作品の映画化

2014年に制作が発表された『Project:Itoh』の第1段・『屍者の帝国』のアニメーション映画が10月に公開されました。アニメーション制作は『進撃の巨人』の”WIT STUDIO”が担当し、そのアニメーションのクオリティや映像美によって、伊藤計劃ファンの裾野を大きく広げる作品として評価を受けています。

主演は細谷佳正と村瀬歩。助演には花澤香菜や楠大典、三木眞一郎などの実力派が名を連ね、3部作全てに『メタルギアシリーズ』の主人公・スネークを演じる大塚明夫が出演するなど、キャスティングにもスタッフの愛が感じられる作品です。

ストーリーは原作とは少々変わっていますが、その分話の筋が分かりやすくなっており、原作の『屍者の帝国』が難しすぎた人にとっては、入門作品として楽しめるものになっているのも魅力です。この記事から伊藤計劃に興味を持ってくださった方がいれば、まずは映画3部作から入るのも良いかもしれません。

『虐殺器官』『ハーモニー』『屍者の帝国』のコミカライズが発表

作品がコミカライズされる

映画の公開に合わせて、3部作のコミカライズが発表されました。それぞれ別の掲載紙で連載され、2019年12月時点で、いずれも完結しています。

『虐殺器官』は『月刊ニュータイプ』にて、2015年5月号より連載が開始され、その後は『コミックNewtype』に移籍して連載。作画を麻生我等が担当し、全3巻で完結しました。

『ハーモニー』も、虐殺器官と同様に、『月刊ニュータイプ』2015年5月号より連載開始。作画を三巷文が担当し、全4巻で完結しました。また、『コミック百合姫』での連載も予定されていましたが、続報はなく、残念ながら計画は頓挫してしまったようです。

『屍者の帝国』は、『月刊ドラゴンエイジ』の2015年10月号から連載が開始。作画を樋野友行が担当し、1年ほどの連載を経て完結しました。単行本は全3巻です。原作とも映画とも違うストーリー展開で、賛否両論のある作品ですが、その分エンターテイメントの要素は強くなっているため、その系統の作品が読みたい方にお勧めします。

『Project:Itoh』第2弾・『ハーモニー』

『屍者の帝国』の公開の1か月後、第2弾として『ハーモニー』が公開されました。アニメーション制作は『鉄コン筋クリート』の”STUDIO 4℃”が担当。静謐で優しく、それなのにどこか残酷な世界観を、映像として見事に表現しています。

主演を務めるのは沢城みゆき

主演は沢城みゆきが務め、助演には上田麗奈や洲崎綾などの若手実力派の他、榊原良子等のベテランも名を連ね、作品の重層的な世界を見事に盛り上げていました。

ストーリーは基本的に原作準拠で進みますが、それ故に「映像表現の妙」が光ります。特に最終局面のシーンなどは、「こう表現したか……!」と息を呑むことは間違いありません。

原作ファンは言わずもがな、映像のクオリティが高い作品を見たい方にもお勧めしたい作品になっています。

2016年 – ―歳「『虐殺器官』のハリウッド映画化が発表」

『虐殺器官』ハリウッドへ

ハリウッドでの映画化が決定

『虐殺器官』のハリウッドでの実写化が発表。監督は『オールド・ボーイ』などの”復讐3部作”で知られる、パク・チャヌク監督であることが発表されています。

ファンからの期待も高まっていますが、残念ながら2019年12月時点で続報はなく、公式からのアナウンスが待たれているところです。

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1 COMMENT

匿名

扱うジャンルがSFである限りは彼の扱った意識や死の概念、SF的ガジェットもやがては古びていくかもしれません。
しかし、彼の特異なリーダービリティだけは現代の日本SF界における一つの到達点だと思っているのでこれからも読者を獲得し続けるんだろうと思っています。
蠱惑的と表現される乱歩の文体がそうであるように。

片手間で終わっていない素晴らしいまとめだと思いました。お疲れ様でした。

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