近衛文麿の死因は?戦争責任を問われて自殺したって本当?
近衛は1945年12月16日未明に青酸カリを服毒して自殺しています。それは戦後にGHQから出頭を命じられた最終期限日の事でした。
死の前日、弟の秀麿は弱り切った文麿の顔をみて自殺する事を予知し、家中に毒物がないかを探しました。文麿が入浴中に脱衣場をみても毒物は見つからず、出頭する気になったと安心し、寝入ってしまいます。
実は文麿は青酸カリを肌身離さず身につけており、自殺する意思は揺らぐ事はなかったのです。秀麿が午前3時頃に文麿の部屋に行くと、既に文麿は死亡していました。
近衛は証言台に立つ事はなく死を選びましたが、覚悟と見るか、逃げとみるかは評価が分かれているのです。
近衛文麿の功績
功績1「パリ講和会議で人種的差別撤廃提案に加わる」
1921年に近衛は第一次世界大戦後の世界のあり方について話し合うパリ講和会議に参加しました。この会議で日本は主要国として参加。以下の事が決められます。
- 国際連盟の設立
- 東欧の諸民族の民族自決
- 軍縮問題
- ドイツへの賠償金問題等
逆に否決されたのが人種的差別撤廃提案 でした。
この提案は日本が挙げたもので、近衛も同意しています。目的は欧米に移住した日本人への差別の解消、国際連盟理事となった日本が人種を目的に発言権を削られないようにする為でした。
この提案は差別が常態化していた欧州や、日本を脅威に感じたアメリカには受け入れられませんでした。投票では賛成多数だったものの、アメリカの権限で否決されています。
国際会議で初めて人種差別について言及したのは日本であり、私達は誇りに思う事でしょう。なお近衛は否決された事で白人に対して強い不信感を抱いたとされます。
功績2「戦時中は和平交渉運動グループの中心人物となる」
戦争の火種を作った近衛ですが、戦時中は和平運動に積極的に動きます。戦時中は元総理大臣で構成される重臣達や、吉田茂等の外交官、陸軍内の反東條英機派等、持ち前の顔の広さを活かしたのです。
1945年2月には3年4ヶ月ぶりに昭和天皇と謁見し近衛上奏文を提出。「米英は天皇制の変革を求めていない」「ソ連を講和相手にはしない方が良い」「共産主義の軍部の革命に注意するべき」という内容でした。
当時はソ連を仲介にした講和論が主流でしたが、近衛はソ連がアテにならない事、米英が天皇制変革の意思がない事を様々なルートから把握し、国際情勢を冷静に分析していました。
結局日本はソ連を仲介にした講和を進めています。これは秘密裏に対日参戦を想定していたソ連により拒否されています。近衛の案が採用されていれば、もう少し早い段階で終戦を迎えられたかもしれません。
功績3「戦後、東久邇宮内閣の国務大臣として活躍する」
1945年8月15日に日本は無条件で降伏し、鈴木貫太郎内閣の代わりに皇族である東久邇宮稔彦王が8月17日に内閣を発足します。近衛は総理格の国務大臣として入閣し、内閣の中心人物として活躍しました。
東久邇宮が戦後直後に総理大臣になったのは、敗戦直後の国内は混乱が予想され、皇族による権威が必要と考えていた為でした。しかし東久邇宮は皇族かつ軍人で政治経験がなく、近衛に一切を任せていたのです。
東久邇宮内閣では以下の事が行われます。
- 占領軍の進駐
- 降伏文書の調印
- 軍の解体
- 行政機構の平時化
東久邇宮内閣は歴代最短の54日で退陣するものの、国内の混乱をある程度終息させた事からその功績は大きいのです。内閣で陣頭指揮を執った近衛の功績も特筆すべきでしょう。
近衛文麿の名言
この重大な時局を乗切るためには、どうしても各方面の相剋摩擦の緩和に重点を置き、真に挙国一致の協力によってやって行かなければならぬと思うのであります
総理大臣就任直後の近衛の演説の一文です。近衛がラジオで演説すると、政治に無関心な各家庭の女性達も大騒ぎしてラジオのスイッチを入れたそうです。
日中戦争へ足を踏み込んだ時も、近衛はラジオの力を使い、世論の支持を得て行きました。上記の言葉は名言というよりも、マスメディアが与える影響を考えるきっかけになるのではないでしょうか。
私は戦争には自信がない。自信のある人にやってもらわねばならぬ
東條英機との対立の末に、内閣を総辞職した時の言葉です。情勢の悪化を招いた事への反省はなく、さりげなく次の総理大臣に責任を転嫁している事が分かります。この言葉は近衛の性格を端的に表しているのです。
自分は政治上多くの過ちを犯してきたが、戦犯として裁かれなければならないことに耐えられない…僕の志は知る人ぞ知る
文麿は死の前日には次男の秀麿に遺書を残しています。政治家として批判される事の多い近衛ですが、彼はどのような覚悟を持って死を選んだのでしょうか。
近衛文麿の人物相関図
こちら近衛家の家系図です。近衛家は藤原鎌足・藤原道長・天皇等、日本有数の家柄である事が分かりますね。