アパルトヘイトとは?意味や影響、撤廃までの道のりも簡単に解説

アパルトヘイトが施行された3つの理由

①白人が南アフリカを支配するため

アパルトヘイト制度を確立させた政治家ダニエル・フランソワ・マラン
出典:Wikipedia

アパルトヘイト施行理由として、まず挙げられるのは「白人による南アフリカ支配」です。

南アフリカは17世紀からイギリス・オランダによって植民地化されており、主権国家*として独立した後も白人によって支配されていました。

主に支配層となっていたのはイギリス系移民でしたが、同じ白人であるオランダ系移民も負けじと南アフリカでの権利を主張。白人同士で対立し合いながらも、常に先住民の黒人たちを差別することで支配力を保ってきました。

そして1948年、政治家ダニエル・フランソワ・マラン率いる国民党が選挙にて勝利。これを機に黒人への差別は悪化し、南アフリカを白人が支配するためのアパルトヘイトが施行されたのです。

*主権国家
国民、領土、主権を持つ近代的な国家の仕組みのこと。独立国とほぼ同じ意味です。

②貧困層の白人を助けるため

黒人を犠牲にして貧しい白人を助けた

アパルトヘイトには、比較的貧しい生活を送る白人たちを救済する目的もありました。

南アフリカを植民地化したイギリスとオランダですが、オランダ系移民(アフリカーナー*)は貧困層が多く「白人としては」貧しい暮らしをしていたのです。

アパルトヘイトを確立した政治家ダニエル・フランソワ・マラン率いる国民党は、そうした貧困層のアフリカーナーを労働などにおいて優遇。その結果、アフリカーナーをはじめとする白人労働者は経済的に豊かになりました。

しかし、その反面で黒人労働者たちは低賃金で働かされることとなったのです。つまり、黒人労働者を踏み台にして貧困層の白人を救済したのですね。

*アフリカーナー
ケープ植民地を作り上げたオランダ系移民、または彼らの子孫のこと。 他にも、宗教の自由を求めてフランスやドイツからやってきた人々も含まれています。

③民族間の対立を避けるため

アフリカーナーの人々
出典:Wikiwand

最後に、アパルトヘイトの施行理由には民族間の対立を避けるという目的もありました。

ここでいう民族とは、先住民の黒人たちではありません。南アフリカを植民地化していたイギリス系移民とオランダ系移民のことです。理由の①②で述べたように、この2つの国は南アフリカの支配をめぐって対立を繰り返していました。

しかし、アパルトヘイト施行後は黒人を差別した社会が両方の経済的な利益になると判断されたのです。その結果、民族間の対立が激減。イギリス系移民もアパルトヘイト施行に理解を示し始めました。

子どもたちの笑顔を奪う「発展」などない

一方で、黒人に対しては「アパルトヘイトによって南アフリカに住むそれぞれの民族が発展することができる」と主張。つまり、当時の政治家たちは黒人を差別している意識はなかったのですね。

ただ、白人と分離させた方がお互いのためになると信じていたのでしょう。しかし、一部のリベラル*派である白人たちはアパルトヘイトを非人道であるとして非難し続けました。

*リベラル
リベラルとは、個人の自由や多様性を尊重する自由主義のこと。政治においてはリベラリズムや社会自由主義の意味合いがあります。
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2 COMMENTS

藤田孝志

こちらにも飛んできました。
実は、ちょうど今、1年生の地理で「アフリカ」を授業していて…欧米による植民地支配、独立後の民族対立・内戦からの難民問題(ルワンダの虐殺を例に)を教えたところで…明日、「アパルトヘイト」を授業する予定です。こちらの「記事」を読ませていただき、授業内容を構成しました。ありがとうございました。
さて、中学校という年齢の問題もありますが、教科書記述も人権問題や戦争・内戦・国家間の対立など以前に比べれば詳しく記述されるようになりましたが、それでも歴史背景や要因・影響などは一面的・画一的で表層のみですから生徒の理解も薄いものになります。時間の制約もあるなかで、それでも「事実」と「背景」「影響」はきちんと押さえながら…先で考えるための視点と歴史認識だけは教えていくつもりで…教科書無視の授業をしています。
たとえ中Ⅰとはいえ、整理して教えると理解しますね。感受性の豊かな生徒は「理不尽さ」には気づきます。そして自分ならどうするかを考えます。
歴史では…改訂されては来ましたが、それでも世界史の分野が実に少なく…補いながら(同時代史の視点から)把握させています。正直、世界史を知らずに大学生や大人になる今の子どもがグローバル社会で大丈夫かと心配になりますね。
私にとっても大学受験での「世界史」は全体把握と暗記でした。本格的に学んだのは大学時代、一般教養で「イギリス社会史」の講義で、岩波書店の「講座世界史」のイギリスを読まされてレポートを書いた際に、市民革命の流れに興味を持ち、マックスウェーバーにはまって…一夏で「講座世界史」を全巻読破して…ようやくわかった感じがしました。特にわかりやすかったのは、G・M・ Trevelyan 「ENGLISH SOCIAL HISTORY」でした。(みすず書房から訳書もありますね)
話が逸れましたね。明日は少し熱を入れて「アパルトヘイト」を語りたいと思います。

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岩野祐里

藤田さんへ
レキシル記事の「アパルトヘイト」を読んでいただきありがとうございます!さらにコメントまでしていただいて、とても嬉しいです。しかも、なんと私の記事をもとに授業内容を構成してくださったとのこと!身に余る光栄でございます。生徒さんたちに少しでも分かりやすく「人種差別」や「人権問題」などが伝われば幸いです。

私も中学生の時には「受験勉強」としての世界史を学んだ記憶があります。藤田さんと同じく、大学生になってから改めて「視野を広げる世界史」を学びました。中学生という若い時期から「事実・影響・背景」をふまえた世界史が学べたら、大人になったとき世界を見る視野が広がっていると思います。明日の藤田さんの授業で、多くの生徒さんが「アパルトヘイト」による人種差別の悲惨さや人権問題に関する人々の動きに注目してくださることを祈っています。

改めて、この度はコメントいただきありがとうございます!今回ご紹介いただいた「ENGLISH SOCIAL HISTORY」、とても気になるので一度読んでみますね! noteでの藤田さんの記事も少しずつ楽しみに読ませていただいております。これからもよろしくお願いいたします。

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