アパルトヘイトとは?意味や影響、撤廃までの道のりも簡単に解説

アパルトヘイトが与えた3つの影響

①すべての衣食住と教育が分離された

アフリカ人自治地域であるシスカイ地区
出典:Wikiwand

アパルトヘイトが施行されると、全ての衣食住と教育が肌の色ごとに分離されました。

黒人たちは農耕にも牧畜にも適さない辺境の土地「ホームランド」に強制移住。そこで部族ごとに地区が割り振られ、それぞれに自治権が与えられました。

さらには飲食店からトイレ、バスなど公共交通機関まで「白人用」「黒人用」に分離。命に関わる施設である病院までも利用できる場所が分けられてしまい、黒人たちは不十分な設備の病院でしか医療を受けられなくなってしまったのです。

また、白人専用の場所に黒人たちが入らないようにするため至るところに分離表記が設置。それにも関わらず、白人用の場所に黒人が立ち入った場合は逮捕されました。

黒人たちは学ぶ権利すら与えられなかった

教育に関しても、黒人に対する差別はひどいものでした。黒人には義務教育がなく「バントゥー教育法*」という独自の教育法が行われたのです。逆に、白人は多額の教育予算を割り当てられていました。

それだけでなく、1952年には「パス法」と呼ばれる法律が成立。南アフリカ在住の16歳以上の黒人は身分証の携帯が義務化されました。これによって、白人は黒人の移動を管理するようになったのです。

このように、アパルトヘイトによって生活のありとあらゆる面において黒人は虐げられ、まるで奴隷のような生活を送らざる得なくなりました。

*バントゥー教育法
黒人たちの教育体制をキリスト系の学校教育から国家が主導する教育へと変えた法律。黒人の高等教育を妨げる教育法だったといわれています。

②黒人の労働環境が劣悪になる

黒人の生活はどんどん悪化していった

アパルトヘイトによって、黒人の労働環境が劣悪なものになったことも大きな社会的影響といえるでしょう。

鉱山資源に恵まれた南アフリカでは、多くの鉱山労働者が必要不可欠です。しかし、1911年に成立した「鉱山労働法」によって人種ごとに職種が分けられ、黒人労働者は高賃金の職種に就けなくなりました。

アパルトヘイト施行後にこれらの法律は更に悪化。1953年の「原住民労働者法」によって、黒人労働者は劣悪な環境で低賃金の労働のみを与えられるようになります。

さらに、黒人たちの職場は白人が運営する農園や工場。時代の移り変わりとともに工場が機械化されると、多くの黒人労働者たちが解雇されました。

こうして黒人たちの生活は益々厳しいものとなり、反アパルトヘイト運動を激化させるきっかけとなったのです。

③選挙権は白人の特権になる

選挙権すらも人種で決められた

アパルトヘイト以前、混血児であるカラードは選挙権をもっていました。しかし、アパルトヘイトが施行されると徐々に白人以外の人々は選挙権を奪われていきます。

そして、1970年には選挙権は白人のみものとなりました。黒人をはじめとする人々は、自分たちの社会的地位を守るための手段を完全に奪われてしまったのです。

また、同年に成立した「バントゥー・ホームランド市民権法」では黒人用の自治区を独立させようとしました。つまり、黒人が住む土地を独立国とすることで「黒人は南アフリカ国民ではなく外国人である」としようとしたのです。

黒人たちの住居を勝手に定めて自治区とさせたうえに、独立すれば南アフリカ国民の地位を奪うといった暴挙。ほんの数十年前に、このような非人道的な行いが国家主導で為されていたとは信じ難いことですね。

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2 COMMENTS

藤田孝志

こちらにも飛んできました。
実は、ちょうど今、1年生の地理で「アフリカ」を授業していて…欧米による植民地支配、独立後の民族対立・内戦からの難民問題(ルワンダの虐殺を例に)を教えたところで…明日、「アパルトヘイト」を授業する予定です。こちらの「記事」を読ませていただき、授業内容を構成しました。ありがとうございました。
さて、中学校という年齢の問題もありますが、教科書記述も人権問題や戦争・内戦・国家間の対立など以前に比べれば詳しく記述されるようになりましたが、それでも歴史背景や要因・影響などは一面的・画一的で表層のみですから生徒の理解も薄いものになります。時間の制約もあるなかで、それでも「事実」と「背景」「影響」はきちんと押さえながら…先で考えるための視点と歴史認識だけは教えていくつもりで…教科書無視の授業をしています。
たとえ中Ⅰとはいえ、整理して教えると理解しますね。感受性の豊かな生徒は「理不尽さ」には気づきます。そして自分ならどうするかを考えます。
歴史では…改訂されては来ましたが、それでも世界史の分野が実に少なく…補いながら(同時代史の視点から)把握させています。正直、世界史を知らずに大学生や大人になる今の子どもがグローバル社会で大丈夫かと心配になりますね。
私にとっても大学受験での「世界史」は全体把握と暗記でした。本格的に学んだのは大学時代、一般教養で「イギリス社会史」の講義で、岩波書店の「講座世界史」のイギリスを読まされてレポートを書いた際に、市民革命の流れに興味を持ち、マックスウェーバーにはまって…一夏で「講座世界史」を全巻読破して…ようやくわかった感じがしました。特にわかりやすかったのは、G・M・ Trevelyan 「ENGLISH SOCIAL HISTORY」でした。(みすず書房から訳書もありますね)
話が逸れましたね。明日は少し熱を入れて「アパルトヘイト」を語りたいと思います。

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岩野祐里

藤田さんへ
レキシル記事の「アパルトヘイト」を読んでいただきありがとうございます!さらにコメントまでしていただいて、とても嬉しいです。しかも、なんと私の記事をもとに授業内容を構成してくださったとのこと!身に余る光栄でございます。生徒さんたちに少しでも分かりやすく「人種差別」や「人権問題」などが伝われば幸いです。

私も中学生の時には「受験勉強」としての世界史を学んだ記憶があります。藤田さんと同じく、大学生になってから改めて「視野を広げる世界史」を学びました。中学生という若い時期から「事実・影響・背景」をふまえた世界史が学べたら、大人になったとき世界を見る視野が広がっていると思います。明日の藤田さんの授業で、多くの生徒さんが「アパルトヘイト」による人種差別の悲惨さや人権問題に関する人々の動きに注目してくださることを祈っています。

改めて、この度はコメントいただきありがとうございます!今回ご紹介いただいた「ENGLISH SOCIAL HISTORY」、とても気になるので一度読んでみますね! noteでの藤田さんの記事も少しずつ楽しみに読ませていただいております。これからもよろしくお願いいたします。

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