研修期間の終わり

2ヶ月の研修期間が終わり、私は正式にダンボの担当飼育員の一人になりました。
「エミリー、本当にやっていける?」マイクさんが心配そうに聞きました。
「はい!絶対にダンボと仲良くなってみせます」
意気込んでいた私でしたが、現実はそう甘くありませんでした。正式に担当になってからも、ダンボとの距離は5メートルから縮まりません。手を伸ばそうものなら、すぐに警戒態勢に入ってしまいます。
でも、私は気づいていました。ダンボの表情が、少しずつ柔らかくなっていることに。
最初の頃の「人間が来た、危険だ」という強い警戒心から、「また、あの人間か」という、ある種の諦めにも似た表情に変わってきていました。それは確実な進歩でした。
先輩の助言

3ヶ月目のある日、休憩時間にマイクさんと園内のベンチに座っていました。
「エミリー、焦っちゃダメだよ」
私のイライラを察したのでしょう。マイクさんが優しく諭してくれました。
「象という動物はね、人間の何倍も記憶力がいいんだ。楽しい記憶も、辛い記憶も、全部鮮明に覚えている。だからこそ、一度失った信頼を取り戻すのは、人間が思っている以上に難しいんだ」
「でも…」
「でもね」マイクさんが空を見上げました。「その分、一度信頼してくれれば、それは一生続くんだよ。アフリカの野生の象は、命の恩人を20年後でも覚えているという話もある」
その言葉が、私の心に深く響きました。
「時間をかけていいんだ。ダンボのペースに合わせてあげよう」