笑えるエピソード②:お風呂嫌い発覚

信頼関係が築けてから気づいたのですが、ダンボには意外な弱点がありました。
水浴びが大嫌いだったのです。
通常、象は水浴びが大好きな動物です。でも、ダンボにホースで水をかけようとすると、5トンの巨体で必死に逃げ回るのです。
「ダンボ、お風呂の時間よ〜」
私がホースを持つと、ダンボは檻の最も遠い場所に逃げて行きます。そして、まるで「いやだ、いやだ」と言うように首を横に振るのです。
「象って、みんな水浴び好きじゃないの?」
マイクさんに聞くと、笑いながら答えてくれました。
「人間と同じで、個体差があるんだよ。ダンボは多分、綺麗好きすぎて、泥んこになるのが嫌なんだろう」
結局、水浴びの時は私が「数を数えるから、10まで我慢して」と声をかけることで、なんとか水をかけさせてもらえるようになりました。
「1、2、3…」
数え始めると、ダンボは目をぎゅっと閉じて、嫌そうな顔で我慢してくれます。10まで数え終わると、まるで「もう終わり?」と確認するように私を見るのです。
そのあまりにも人間らしい反応に、いつも笑ってしまいました。
園内での評判

ダンボの変化は、園内でも大きな話題になりました。
来園者の皆さんも、以前とは明らかに違うダンボの様子に気づいていました。以前は檻の奥に隠れていることが多かったのに、今では堂々と展示場を歩き回り、来園者に興味を示すようになったのです。
「あの象さん、こっちを見てくれてる!」
子どもたちの声が、象舎に響きます。
特に人気だったのが、私がダンボに話しかける様子でした。来園者の皆さんは、まるで会話をしているかのような私たちの様子を、微笑ましそうに見守ってくれました。
「飼育員さんとこんなに仲良しな象は初めて見た」
「本当に会話してるみたい」
そんな声を聞くたびに、胸が熱くなりました。